騒音障害(騒音性難聴)

激しい騒音は、業務遂行に必要な会話や合図などに支障をきたすだけでなく、人体に身体的・心理的な影響も及ぼします。特に、慢性的・長時間にわたって強大な騒音に暴露されることによっておこる「騒音性難聴」は、不可逆的な聴覚器官の障害で治療困難なため予防対策が重要となります。このため、厚生労働省(旧労働省)から「騒音障害防止のためのガイドライン」が策定されています。

騒音性難聴の特徴
  • 慢性的に長時間にわたって騒音に暴露されることによって発症する難聴。
  • 強大な音響に暴露されたために、内耳(蝸牛)の感覚細胞(有毛細胞)が障害を受け、徐々に回復不能になる。
  • 騒音レベルが高く、暴露期間が長いほど発症率が高くなる。
  • 騒音性難聴になるかどうかは個人差が大きく、同じような状況下にいても難聴になる人とならない人がいる。
  • 発症初期には、高音部とくに4000Hz付近の音が聞こえにくくなるC5-dipというパターンを示す。
  • 徐々に進行し、次第に高音部だけでなく低音部も聞こえにくくなり、日常会話にも支障がでるようになる。
騒音性難聴の予防対策
  • 騒音性難聴は、慢性に進行し不可逆的で効果的な治療がないため、予防対策が重要となる。
  • 適切な作業環境(騒音レベル)の評価とそれに基づく対策が基本。
  • 根本的には騒音レベルそのもの低減や騒音源の遮蔽などの設備面での対策(作業環境管理)となる。
  • 設備対策が困難な場合は、耳栓やイヤーマフなど保護具の着用(作業管理)による遮音対策を徹底する。
  • 定期的な聴力検査による経時的な評価(健康管理)と必要に応じた事後措置。
騒音の評価(作業環境測定)
  • 騒音レベルは、一般に時間とともに変動し一定ではないため「等価騒音レベル」で評価する。
  • 等価騒音レベルとは、時間とともに変動する騒音レベルをある時間の範囲内でこれと等しいエネルギーをもつ定常騒音の騒音レベルとして表現したもの。一般的には、積分騒音計で測定する。
  • 以下の図のように、作業場全体の平均と考えられるA測定と最大値になると考えられるB測定によって評価する。

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騒音測定のイメージ(騒音障害防止のためのガイドラインより)
  • A測定・・・作業場所を縦・横6m以下の等間隔で引いた交点を測定点とし、床上1.2~1.5mで測定する(騒音レベルがほぼ均一であることが明らかな場合は6mを超えてよい)。測定点は原則として5以上とする。
  • B測定・・・音源に近接する場所で作業が行われる場合、騒音レベルが最も大きくなると思われる時間に、その作業位置で実施する。
  • A測定の算術平均とB測定の値から、以下の管理区分に当てはめて評価する。

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騒音レベル評価と管理区分(騒音防止のためのガイドラインより)
管理区分に応じた対策
  • 第Ⅰ管理区分・・・作業環境の維持に努める。
  • 第Ⅱ管理区分・・・騒音がある場所を標識によって明示する。騒音を減らすための必要な措置を講じて第Ⅰ管理区分になるよう努める。必要に応じ、作業者に防音保護具を使用させる。
  • 第Ⅲ管理区分・・・騒音がある場所を標識によって明示する。騒音を減らすための必要な措置を講じて第Ⅰ又は第Ⅱ管理区分になるよう努める。改善措置を講じたときは再度測定し評価を行う。作業者に防音保護具を使用させる。防音保護具を使用するように見やすい場所に標識を掲示する。
具体的な騒音対策の例

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代表的な騒音対策の方法(騒音障害防止のためのガイドラインより)
 健康管理

一般健康診断の定期健康診断は安衛則44条に定められているように年1回ですが、特定業務従事者(安衛則第13 条)においては6カ月以内ごとに1回(年2回)の健康診断を行うと定められています(安衛則45条)。この特定業務従事者には「強烈な騒音を発する場所における業務」も含まれており、おおむね90dB(A)を超える騒音が発生する職場とされています。よって、この場合は年2回の健康診断は義務となります。
一方で、「騒音障害防止のためのガイドライン」には、85dB(A)以上になることが想定される騒音作業に常時従事する労働者に対して行う特殊健康診断(オージオグラムによる250ヘルツから8,000ヘルツまでの聴力検査など)が定められています。これは、じん肺などのように個別の法令に基づく特殊健康診断ではなく、ガイドラインに基づいて行われる行政指導による特殊健康診断であり、雇入時等健康診断と年2回の定期健康診断が努力義務として定められています。努力義務ではありますが、実際には多くの騒音職場で実施されており、これに関しても実施することが求められます。

特定業務従事者の定期健康診断が6月以内に行われた場合(オージオメータにて1,000ヘルツ及び4,000ヘルツにおける選別聴力検査が行われた場合に限る)には、これを本ガイドラインに基づく定期健康診断(オージオメータによる1,000ヘルツ及び4,000ヘルツにおける選別聴力検査の項目に限る)とみなして差し支えないとされています。このため、実際にはこの特定業務従事者の定期健康診断に合わせて実施することが多くなっています。

健康診断に基づく事後措置

聴力検査の結果から以下の表に示す措置を講ずることが基本ですが、耳科的既往歴、騒音業務歴、現在の騒音作業の内容、防音保護具の使用状況、自他覚症状などを参考にするとともに、生理的加齢変化(老人性難聴の影響)も考慮する必要があります。

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聴力レベルに基づく管理区分(騒音障害防止のためのガイドラインより)
騒音作業場における健康管理の対象

他の特殊健診についても言われることですが、この「常時従事する」ことの解釈は明確ではありません。管理区分Ⅰの85dB(A)未満の根拠が、「1日8時間暴露されても許容される基準」と言われていますので、この「1日8時間暴露」が一つの基準になるかもしれませんが、管理区分Ⅱ~Ⅲ以上の騒音レベルではもっと短い時間の暴露でも騒音障害が発生するので一概には言えません。また、騒音への感受性には個体差があります。
そもそも、健康管理の目的は労働者が常に健康な状態で働けるように有害因子の影響を調査して安全衛生管理に役立てることですので、「常時従事する」という文言にあまりとらわれず、騒音作業に多少なりとも携わる労働者に対しては同じ対応がなされることが望ましいと考えられます。他の有害作業・特殊健診に関しても同様に考えます。

保護具の着用

耳栓を着用すると「うっとうしい」「コミュニケーションがとりずらい」などの理由から、着用しなかったり、つけたり外したりなどということがよく見られます。しかしながら、騒音性難聴は、長い時間をかけて発症するものであることや一度発症すると不可逆的で治療困難です。また、わずかな時間の未着用でも実質的な暴露騒音レベルが大きく上昇するため、作業時間を通して着用しなければ保護効果が得られないといわれています。騒音作業に従事するときは、保護具の着用を徹底することが重要です。

 

以上、「騒音障害防止のためのガイドライン」の内容を中心に騒音性難聴についてみてきました。騒音障害は、短期的には症状などが現れにくいこと、設備面での対策が困難な場合があること、保護具の着用がおろそかになりやすいことなどからその対策が難しい面があります。しかし、一度発症すると日常生活にも大きな影響が出る可能性があるので、しっかりとした対策が必要と考えられます。